平成30年4月24日、消費者庁の消費者安全調査委員会より「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」が公表されました。
プール事故を予防するポイントが5つ示されています。
その背景には、平成23年7月に神奈川県の幼稚園でプール事故が発生してからも、プール事故が繰り返されていることへの強い危機感があります。


プール活動の季節は目前。5つのポイントのおさらいは、安全対策の一助、あるいは再確認として有益です。

 

「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」とは?

今回公表された「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」は、平成23年に神奈川県内で発生したプール事故に端を発します。

平成23年7月11日、神奈川県内の幼稚園でプール事故が発生しました。
消費者庁の消費者安全調査委員会は、事故原因の発生原因や被害の原因を調査のうえ、「消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」を作成し、再発防止策を示しました。

ところが、その後も、認定こども園でプール活動中の5歳児が意識不明となる等同様の事故が発生しています。

事態を重く見た消費者安全調査委員会は、プール事故・水遊びについて、5000の幼稚園、保育所、及び認定こども園に実態調査を行いました。

表1は、5000の幼稚園、保育所、及び認定こども園の内訳です。
公立・私立、認可・無認可等問わず幅広く対象となっています。

 

表2は、回答の回収率です。
回答の回収率は54.2%。消費者庁側の危機感に比べると低いという印象です。

 

教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」は、この実際調査に基づき作成され、プール事故を予防するポイントを示しました。

ポイントを示す背景には、平成23年7月11日のプール事故以降も、同様の事故が繰り返されることへの強い危機意識があります。
幼稚園等もこれを真摯に受け止め、実行に移すことが期待されます。

 

5つのポイント

まずは、5つのポイントです。

1 監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないようにすること

2 監視のポイントや事故の未然防止に関する教育

3 緊急事態への備え及び対応

4 事故やヒヤリハット情報の共有、蓄積

5 ガイドライン及び通知の周知徹底

 

5つのポイントは園の法的責任の土台となる

5つのポイントは、幼稚園等の法的責任の土台となります。

すなわち、プール事故の発生時、幼稚園等がこれらのポイントを果たしていたかが争点となり、果たしていなければ法的責任を認定される可能性が高くなるということです。

なぜなら、幼稚園等は、子どもを預かる専門家として、子どもの安全について一般より高度な注意を払わなければなりません。東日本大震災における津波被害を巡る裁判において、幼稚園や小学校に高度な注意義務を課す判決がなされたことは、記憶に新しいところです。この高度な注意を払ったかどうかの基準の一つとして、これらのポイントを果たしていたかが重要な要素になるからです。

その意味で、今回示されたポイントを真摯に受け止めて実行することが、幼稚園等に求められ、そもまま子ども安全に直結することになります。

今回を含めて5回に分け、実態調査で明らかになった幼稚園等の取り組みに触れつつ、今回示されたポイントをみていきます。

今回は、「1 監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないようにすること」についてです。

 

実態調査の結果(監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないようにすること)

プール活動を指導する職員以外に、監視に専念する職員を配置することが求められます。

平成23年のプール事故について作成された消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」の「6 再発防止策」においても、以下のとおり強調されていました。

監視する者と指導する者を別に配置

監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないよう、幼児の安全を見守る監視者とプール活動の指導等を行う者の業務分担を明確にし、監視者、指導者を各々別に配置する。加えて、監視者を複数配置する際は、監視エリアに漏れがないように分担を決めることが重要である。

果たしてどれくらいの幼稚園等が実行しているのでしょう。

 

73.3% 監視者が監視に専念することへの取り組みは進んでいる

実態調査によると、新たにプール活動・水足遊び時の監視者が監視に専念するようにした幼稚園等は、73.3です。
新たに取り組みを始めた園は比較的多いといえそうです。

 

179園 それでも監視に専念する職員がいないと回答した園

監視に専念する職員がいないと回答した幼稚園等も179ありました。
その理由として、人員不足、改善の必要性を感じないと回答した幼稚園等もありました。

 

78% 監視に専念する職員が配置できなくてもプール活動・水遊びを中止しない園も

監視に専念する職員が配置できなかったとき、プール活動・水遊びは中止されるのでしょうか。

中止すると回答した幼稚園等は、全体の平均で約78です。
無回答もあわせ、中止すると回答しなかった幼稚園等も平均で22にも上ります。

 

意識は高まりつつあるがまだ十分ではない

実態調査によると、監視に専念する職員を配置する意識は高まっています。
ただ、職員を配置せず、プール活動・水遊びを続行している幼稚園等も少なくありません。

平成23年のプール事故の原因は、教諭が監視と指導と片付けをひとりで同時に行ったことで、監視体制に空白が生じたことにありました。


平成23年の事故原因にかかる「消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」は、「5.1 事故等原因」において、以下のとおり指摘しています。

(1)監視の空白

事故発生時、当該幼稚園のプールでは、園児の監視、指導、片付けの業務が混在する中で、本来優先されるべき監視業務を優先することが妨げられたことにより、園児の監視体制に空白が発生していたことが認められる。

監視に空白が生じたこととプール事故との因果関係が公に認められ、これを回避するには監視に専念する職員を配置することが有効との見解が示されています。

ですから、子どもの安全のためには、プール活動・水遊び時において監視に専念する職員を配置することが必須です。

にもかかわらず、あえて監視に専念する職員を配置しないままプール事故が発生すれば、その原因は監視に専念する職員を配置しないことにあったのではと法的責任を追及されることになるでしょう。

その意味で、実態調査は、意識の高まりが十分でない幼稚園等もまだ存在することを示しています。

なお、実態調査では、監視に専念する職員の人数を園の型式別に分類しています。
私立幼稚園に、「監視に専念する職員はいない」との回答(図1-1の朱色)が比較的多いとの結果が示されています。

 

 

監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないようにすること(監視に専念するための工夫)

監視に専念する職員を配置している幼稚園等は、監視体制に空白が生じないように、どのような工夫をしているのでしょう。
実態調査では、「監視者」「人数確認」について、現場の工夫が挙げられています。

監視者についての工夫

・監視者が、監視中であることを周囲の人間が分かるようビブスを着用している
 (公立保育所)。

・監視者は、腕章を身につけ役割を果たし、次の監視者にバトンタッチする(幼
 保連携認定こども園)

・監視役に徹することができるように、タスキをかけ、誰がみても監視役だと分
 かるようにしている。保育士のみならず、子供達にも監視の先生には「話しか
 けない・ものを頼まない、遊んでもらわない」と決めている(公立保育所)

3つめの「子供達にも監視の先生には『話しかけない・ものを頼まない、遊んでもらわない』と決めている」は、話しかけられれば応答せざるを得ない先生のありように配慮することで、監視体制の空白を防止する工夫といえます。

人数確認についての工夫

・スイムキャップを園で購入し、数字をつけ、チェック票を作り監視員が活動中
 に数字をチェックする(私立保育所)。

・指導員と監視員に分けて、管理している。監視員は、ストップウォッチを持ち、
 10分入ったら、一度園児をプールから出し人数確認をしている。監視員はたす
 きをかけている(公立保育所)

・監視者は対角の位置で、監視するよう心がけている(公立幼稚園)。

・監視台を購入し、監視者が子供を見やすくすると同時に、監視に専念できるよ
 うにした(市立保育所)。

・看護師に水質検査を兼ねて、プール遊びの時間帯はできるだけフリーで動ける
 ようにしている(幼保連携認定こども園)。

・遊戯の片付けは子供と一緒にするようにし、離れた場に子供がいることがない
 ようにしている(公立幼稚園)。

・プールサイドに携帯電話、連絡マニュアル等を専用ボックスに入れて設置して
 いる(公立保育所)。

スイムキャップを園で購入し、数字をつけ」(1番目)、「対角の位置」での監視(3番目)、「監視台を購入」(4番目)等、目に見える具体的な工夫がなされています。

なお、監視の工夫については、目線の動かし方についても重要です。

 

 

監視の工夫については、参考になるチェックリストが「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」の「付属資料」にあります。
是非ご参照ください。

 

まとめ

プール活動の季節を目前にすべての園がプール事故発生を意識されていることでしょう。
教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」は、安全対策の一助、あるいは再確認として、より具体的に意識を高めるために有益です。


特に監視に専念する職員を配置することは、これまでの経緯や資料が公表されていることに照らすと、安全対策として必須といえます。

是非、「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」をご参照ください。