園外保育の保育園児が、倒れた墓石の下敷きになり、重体となっていましたが、残念ながら23日に亡くなりました。

園外保育における、安全監視体制が問題になりそうです。                 引用元:平成30年2月23日付NHK NEWSWEB

事故の状況

警察によると、当時、園児46人は保育士4人に引率され、保育園から650mほど離れた広場で遊んでいました。

その広場には墓地が隣接しており、園児の知らせで保育士が墓地に駆けつけたところ、園児が墓石の下敷きになっていました。

園児は、広場で遊んでいる際に隣の墓地に入ったとみられますが、引率していた保育士は園児が墓地に入ったことに気づいていませんでした。

なお、墓石は高さ80㎝、幅40㎝、奥行き20㎝で、土台に乗っているだけで、固定されていませんでした。

 

子どもの安全と保育所保育指針

指摘するまでもなく、子どもを預かる施設は、その安全を最優先しなければなりません。
保育所保育指針は、
子どもの安全について以下のとおり定めます。もちろん、これらは、保育園以外の施設にも当てはまります。

保育所保育指針 
第五章・1・(二)・ア
保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に努め、安全対策のために職員の共通理解や体制作りを図るとともに、家庭や地域の諸機関の協力の下に安全指導を行うこと。

保育園内外の安全点検」とあるのは、園外保育にも危険が潜んでいるからに他なりません。

日常的な園外保育についていえば、まずは、日常的に利用する散歩の経路や公園等について、異常や危険性の有無、工事箇所や交通量等を含めて記録し、情報を全職員で共有することが必要です。

そして、園外保育の現場では、常に全員の子どもの動きを把握し、職員間の連携を密にして子供たちの観察に空白時間が生じないようにしなければなりません。

残念ながら、本件では、不十分だったようです。

 

園外保育中の園児が池に転落した事例

園外保育の事故について、裁判例があります。
この裁判では、現場に同行した保育士のみならず、同行しなかった園長や主任にあたる保育士も、刑事上の責任(業務上過失傷害罪)に問われました。
裁判所はこれを認めています。

事故の状況

その保育園は、園児の情操教育の一環として、同園に隣接する神社に参拝する園外保育を行っていました。
その参拝途上の通路から数m程奥には周囲に防護柵等のない池(最深部80㎝)がありました。

事故当時、5名の保育士が、約70名の園児を引率して園外保育を行っていましたが、当時3歳の園児が池に転落してしまいました。

しかし、引率した保育士は気づかず、同園児は、回復見込みのない低酸素性脳症の後遺症を負いました。

裁判所の判断

裁判所は、現場に同行しなかった園長や主任にあたる保育士の刑事上の責任を認めました。

判断の概要は、以下のとおりです。

 1 池に転落する危険性があり、予測可能だった

まず、園児が池に転落する危険があり、かつそれが予測可能だったことを認めました。

裁判所が着目したポイントは以下のとおりです。

 池が園外保育の場所から数mと近い。
 池の周囲に防護柵がない。
③ 園外保育に慣れない新入園児を含む約70名を5名の保育士で引率するため混乱が
 予想され、その混乱において園児が池に近寄ることも予想される。

2 現場に同行しない園長や主任にあたる保育士にも注意義務がある

次に、前1の危険を回避するために、園長や主任にあたる保育士が負うべき注意義務を以下のとおり認めました。

園長は、
  直接に、あるいは主任にあたる保育士を介して間接的に、引率する保育士らに
   対し、

  園外保育に出発するまでの間に
  池の危険性を充分認識させるとともに
  園外保育中は、自らの担当園児だけでなく園児集団全体を視野に入れ、
  その集団から離脱して池の付近に残留したり立ち戻るなどする園児がないよう
   それぞれの立場で互いに共同して引率、監視するよう、

  さらに最後尾の保育士は園児の残留等について最終確認するよう指示し、
  もって、園児が池に転落しないよう、たとえ転落しても速やかに発見して救出
   できるよう指導すべき業務上の義務があった。

 主任にあたる保育士は、直接引率保育士に対し、園長と同様に、事故防止のための
 具体的指導をすべき業務上の義務があった。

3 園長や主任にあたる保育士の注意義務違反

さらに、前述の注意義務を前提に、以下のとおり注意義務違反、ひいては刑事上の責任を認めました。

① 園長や主任にあたる保育士のいずれも、池の危険性に思いいたらず、
 そのため前述の具体的な指導もなさず、単に園児集団全体を監視するよう一般的な
 注意を与えるにとどまっていた。

② そのため、引率保育士も、池の危険性やその予防策に充分認識しないまま
 園外保育を行い、前述の事故に至った。

留意すべき2点

裁判所の判断について特に留意すべき2点を挙げてみます。

1 現場に同行しなくても現場の保育士同様の注意義務を負う

まず、裁判所が、現場に同行した保育士のみならず、これを指揮監督すべき園長等にまで注意義務を課している点です。

園長や主任にあたる保育士等、他の保育士を指揮監督すべき立場にある方は、例えば園外保育であれば、園外保育先の情報等を共有して、安全確保のために直接、間接に指揮監督しなければなりません。

抽象的に一般的な注意だけをして、あとは現場任せでは、指揮監督とはいえません。具体的にどのような危険があり、それを回避するためにどうすればよいのか、個別具体的に指揮監督する必要があります。

2 園児の心身の状況等も考慮される

次に、注意義務の内容や程度には、外的環境だけでなく、園児の心身の状況等も考慮されるということです。

このことは、裁判所が、「園外保育に慣れない新入園児を含む約70名を5名の保育士で引率するため混乱が予想され」と指摘していることからも分かります。

すなわち、裁判所は、注意義務を認定する要素として、「園外保育に慣れてない」「新入園児」「約70名引率すれば混乱が予想される」といった、園児の状況も考慮しているのです。

ただ、この2点は、先ほどの保育所保育指針にも示唆されていることです。

保育所保育指針 
第五章・1・(二)・ア
保育中の事故防止のために、子どもの心身の状態等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に努め、安全対策のために職員の共通理解や体制作りを図るとともに、家庭や地域の諸機関の協力の下に安全指導を行うこと。

前1の「現場に同行しなくても現場の保育士同様の注意義務」を果たすには、「職員の共通理解や体制作りを図」り、例えば現場とそれ以外の職員同士での情報共有が必要です。

また、前2のとおり注意義務の内容や程度に「園児の心身の状況等」も考慮される以上、職員は常に「子どもの心身の状態等を踏まえつつ、保育所内外の安全点検に努め」ることを意識しなければなりません。
例えば、同じ園外保育でも、園児の年齢構成や人数等により、払うべき注意義務の内容や程度が異なるので、それにあわせて安全対策や人員配置を手厚くするっことが必要になります。

4月から新要領・指針が全面実施されますが、子どもの心身の状態等を踏まえつつ安全点検に努めること、職員の共通理解や体制作りを図ることの重要性に変わりはありません。
子どもの安全についてより高い意識で新要領・指針を踏まえることが期待されます。