平成23年7月、幼稚園のプールで当時3歳の男の子が溺れて亡くなられた事故について、当時の園長が業務上過失致死罪に問われています。平成27年1月26日、検察は、男の子の死亡について園長に「過失」があったとし、罰金100万円を求刑しました。
被告となった園長は、「申し訳なく思います。今後も冥福をお祈りし続けます。」旨謝罪する一方で、法的な「過失」はなかったとして、刑事責任を争っています。

 

それぞれの主張から見てとれる本件の争点

事故は、新任の教諭が1人でプール指導をするなか、用具をプールサイドの所定箇所に片付けようとプールから目を離したところ、男の子が溺れてしまったというものです。
教諭は自らの過失を認め、罰金50万円の判決を受けています。

検察側は、園長について、「水遊び時の注意事項を教諭に十分に教えず、複数人による監視体制をとっていないなど、注意義務違反であることは明白」と主張しています。
検察側は、以下に照らし、園長の「過失」を基礎づけようとしているのでしょう。
① 新任の教諭にプールから目を離さないよう指導し徹底することを怠った。
② いずれにしても、プール指導では指導者と監視者を別に設けて監視を徹底すべきだったのにこれを怠った。

これに対し、弁護側(園長側)は「幼稚園では子供から目を離さないことを徹底するなど、十分な教示が行われていた。複数監視体制を義務づける法令や行政指導はなかった」と反論し、無罪を主張しています。
弁護側(園長側)は、以下のとおり主張して、検察側の主張に理由がないことを基礎づけようとしているのでしょう。
① 新任の教諭にはプールから目を離すなと指導していた。これを怠ったことについてその教諭に過失が認められるとしても、これをもって園長の過失とはいえない。
② 事故時のプール指導において、指導者と監視者を別に設けていなかったことは事実だが、そもそもこれを義務づける法令や行政指導はなかったから、直ちに違法として刑事責任を問われるべきものではない。

これらに照らすと、本件の争点は、以下のとおりになるでしょう。
① 園長が、新任教諭に対し、プールから目を離さないよう指導を徹底していたか。
② プール指導において指導者と監視者を別に設ける監視体制をとることは、園長の法的義務か。

判決は3月31日です。
争点への判断が注目されます。

 

まとめ(より安全なプールの監視体制へ)

この事故については、消費者安全法第23条第1項に基づく事故等原因調査報告書が作成されています。消費者庁のホームページにアップされていますので、ご参照ください。
同報告書では、この事故を教訓としたプールの監視体制として、①監視する者と指導する者を別に配置すること、及び②事故の未然防止に関する教育を求めています。

子どもの安全のため、幼稚園はもちろん、すべての教育機関において、より積極的なプール監視体制を築くことが期待されます。

 

編集後記

川崎市麻生区において、ユニークな防災教育が行われています。
幼稚園の法務では、子どもたちはどうしても「守るべき存在」となりがちですが、これを前提としつつも、子どもたちが自ら防災意識を高めるという試みに感銘を受けました。
次回ご紹介いたします。