平成27年4月から子ども子育て支援新制度が始まります。平成26年秋の調査では「新制度に移行する・移行を検討している」私立幼稚園(認定こども園を含む)は2割程度でした。現時点においても、その割合は変わらず、まだ様子見が多い印象です。
その理由の一つとしてあげられることも多い「応諾義務」。
新制度への移行で新たに課される、いわば未知の義務とはいえます。しかし、積極的な情報開示への契機として前向きに捉えることもできそうです。
「応諾義務」は新制度の理念を実現する義務
改めて述べるまでもなく、入園の申込があったときには、これを拒んではならないということです。ただし、「正当な理由」があれば拒むことも許される場合もあります。
子ども子育て支援法は、以下のように定めます。
子ども子育て支援法
第33条(特定教育・保育施設の設置者の責務)
1 特定教育・保育施設の設置者は、支給認定保護者から利用の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。
2 ・・・略・・・
その趣旨は、新制度が掲げる理念「全ての子どもの健やかな成長」を実現することにあります。確かに、幼稚園等がそれぞれ自由に入園を拒めては、その理念の実現は覚束なくなります。
子ども子育て支援法
第2条(基本理念)
1 ・・・略・・・
2 子ども・子育て支援給付その他の子ども・子育て支援の内容及び水準は、全ての子どもが健やかに成長するように支援するものであって、良質かつ適切なものでなければならない。
応諾義務の例外となる「正当な理由」は3つに分類
次に、応諾義務の例外となる「正当な理由」とはどのようなものでしょう。国では以下を想定しています。
①定員に空きがない場合
②定員を上回る利用の申し込みがあった場合
③その他特別な事情がある場合
①②は当然ですね。
内閣府令も定員を超えて保育の提供を行ってはならないと定めています。
内閣府令第39号
第22条(定員の遵守)
1 特定教育・保育施設は、利用定員を超えて特定教育・保育の提供を行ってはならない。
・・・以下略・・・
ただし、②の場合には、例えば以下のような公正な方法による選考が必要です(内閣府令第39号・第6条2項)。
〇抽選
〇申込みを受けた順序
〇当該特定教育・保育施設の設置者の教育・保育に関する理念
内閣府令第39号
第6条(利用申込みに対する正当な理由のない提供拒否の禁止等)
1 ・・・略・・・
2 特定教育・保育施設(認定こども園又は幼稚園に限る。以下この項において同じ。)は、利用の申込みに係る・・・支給認定子どもの総数が、・・・利用定員の総数を超える場合においては、抽選、申込みを受けた順序により決定する方法、当該特定教育・保育施設の設置者の教育・保育に関する理念、基本方針等に基づく選考その他公正な方法(第4項にお いて「選考方法」という。)により選考しなければならない。
3 ・・・略・・・
4 前二項の特定教育・保育施設は、選考方法をあらかじめ支給認定保護者に明示した上 で、選考を行わなければならない。
・・・以下略・・・
定員を上回る利用の申込があった場合には、+αとして選考を公正な方法で行って、初めて「正当な理由」が認められることになります。
なお、この選考方法は、予め保護者への明示が必要です(前記の内閣府令・第6条4項)。申込が定員を超えてから急遽検討した選考方法で選考することは認められていません。このことは重要事項説明書による説明に関連しますので、いずれ触れたいと思います。
前③「その他特別の事情がある場合」の特定はこれから
解釈に幅があり、運用に悩むのはこの③です。
国では、以下の観点から運用の指針を検討し明らかにするようです。
1特別な支援が必要な子どもの状況と施設・事業の受入れ能力・体制との関係
2利用者負担の滞納との関係
3設置者・事業者による通園標準地域の設定との関係
4保護者とのトラブルとの関係
1 特別な支援が必要な子どもの状況と施設・事業の受入れ能力・体制との関係
例えば、障がいのある方からの入園申込があった場合です。
施設の受け入れ能力や職員の体制等により責任をもった受け入れが困難であれば、「正当な理由」ありとして、申込を拒める場合があります。
ただし、その場合でも、申込者に対し、受け入れに適切な特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業を紹介する等の適切な措置を速やかに講じなければなりません(内閣府令39号 第6条5項)。
内閣府令第39号
第6条(利用申込みに対する正当な理由のない提供拒否の禁止等)
1~4 ・・・略・・・
5 特定教育・保育施設は、利用申込者に係る支給認定子どもに対し自ら適切な教育・保 育を提供することが困難である場合は、適切な特定教育・保育施設又は特定地域型保育 事業を紹介する等の適切な措置を速やかに講じなければならない。
2 利用者負担の滞納との関係
例えば、先に入園している兄について既に滞納が生じている場合です。
兄に滞納があれば、弟の入園に消極的にならざるを得ないことはやむを得ないところです。なお、単に収入の多寡を理由として入園を拒むことはできません。
3 設置者・事業者による通園標準地域の設定との関係
例えば、申込者が通園バスの運行範囲外に居住していて、通園に支障が生じることが予想される場合です。
4 保護者とのトラブルとの関係
例えば、かつて保護者と幼稚園との間にトラブルが過去にあり、また現在ある場合です。トラブルがあれば、保育を提供するに足る信頼関係を築けないこともあるでしょう。
なお、その他にも以下のとおり入園を拒んでも応諾義務違反に問われない場合が明らかにされました。
〇市町村の利用調整の結果、別の園に利用決定となった保護者が、直接、認定こども園に申し込んできた場合
〇市町村に申し込まずに直接、認定こども園に申し込んできた場合
「その他特別の事情がある場合」については、現場が混乱しないよう、できるだけ早く具体的な指針が明らかにされることが期待されます。
まとめ
「応諾義務」は、入園を拒む拒まない(「正当な理由」があるない)という紛争の火種になりそうにも思えます。
しかし、一方では、新制度に移行した幼稚園等に対し、例えば重要事項説明を活用した積極的な情報開示を促す契機になるでしょう。
積極的な情報開示があれば、子どもの保護者の方は自身らとの相性を判断し、あわないと考えれば入園を申し込みませんから、これを拒む拒まないということ自体生じません。応諾義務を契機に積極的な情報開示が行われれば、相性の合わない同士が出会う不幸を回避できるのです。
法的義務と聞けば慎重にならざるを得ないところですが、少なくとも「応諾義務」については、積極的な情報開示の契機と考えれば、必要以上に慎重になる必要はないでしょう。
編集後記
前回、子どもが能動的に関わる防災教育についてお伝えしましたが、そこで紹介した「子ども防災ネットワークおかやま」にお邪魔して、出前授業を見学できることになりました。
後日、その内容をお知らせできそうです。