情報公開への意識の高まりでしょう。最近私立幼稚園の方より「一般向けには財務資料をどこまで開示すれば・・・」とご相談いただきます。
財務資料の開示に限りません。「どこまですれば・・・」と悩んだら、まずは法令上の最低ラインをクリアー、さらにサービス拡充のためそれ以上を目指す、と考えれば分かりやすくなります。
今回は、私立幼稚園の財務資料の開示について、法令上の最低ラインを「だれに」「なにを」「どのように」の観点から見てみましょう。
「だれに」=「利害関係人に」
私立学校法第47条第2項によると、「だれに」は「利害関係人に」です。
私立学校法第47条第2項
学校法人は、前項の書類及び第37条第3項第3号の監査報告書(第66条第4号において「財産目録等」という 。)を各事務所に備えて置き、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった 場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない。
「『利害関係人』ってだれ?」ですが、文部科学省高等教育局私学部長通知(平成16年7月23日 16文科高第304号)が参考になります。同通知で想定する「利害関係人」は、例えば以下のとおりです。
① 当該学校法人の設置する私立学校に在学する学生生徒やその保護者
② 当該学校法人と雇用契約にある者
③ 当該学校法人に対する債権者、抵当権者
その他、同通知は、「その学校法人の設置する私立学校に入学を希望する者で、入学する意思が明確に確認できると判断された者」も該当すると考えています。
「なにを」=「①財産目録 ②貸借対照表 ③収支計算書 ④事業報告書 ⑤監事による監査報告書を」
私立学校法第47条第2項によると、「なにを」は、「①財産目録 ②貸借対照表 ③収支計算書 ④事業報告書 ⑤監事による監査報告書を」です。
私立学校法第47条(抜粋)
1 学校法人は、毎会計年度終了後二月以内に財産目録、貸借対照表、収支計算書及び事業報告書を作成しなければならない。
2 学校法人は、前項の書類及び第三十七条第三項第三号の監査報告書(第六十六条第四号 において「財産目録等」 という。)を・・・閲覧に供しなければならない。
なお、ここでいう「収支計算書」は、学校法人会計基準第4条において作成を求められる「資金収支計算書」「消費支出計算書」です。
「どのように」=「事務所に備え置いて閲覧」
私立学校法第47条2項をもう一度見てみましょう。
「どのように」は、「事務所に備え置いて閲覧に供する」です。
私立学校法第47条2項
学校法人は、前項の書類及び第三十七条第三項第三号の監査報告書(第六十六条第四号において「財産目録等」と いう。)を各事務所に備えて置き、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があ った場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければならない。
「閲覧に供する」とは、お見せするということです。
ですから、ホームページにアップすることまでは義務づけられていません。
また、閲覧者からコピー(謄写)を求められてもこれに応ずる義務はありません。法律上「閲覧」と「謄写」は区別されており、私立学校法47条では「閲覧に供する」とのみ規定されているからです。
まとめ
まとめますと、法律上の最低ラインは、以下のとおりです。
① 利害関係人に対し、
② 貸借対照表等を、
③ 幼稚園の事務所に備え置いてお見せする。
ただ、サービス拡充のためには、積極的な情報開示をする、すなわち、HPにアップするとか、閲覧のみならず謄写まで対応するといった、柔軟な対応も検討すべきでしょう。
少なくとも、「お見せしますがコピーはしません。」って、一般的にはよく思われませんね。
先ほどご紹介した、文部科学省高等教育局私学部長通知(平成16年7月23日 16文科高第304号)にも、以下のとおり、同趣旨の記載があります。
これら法律による閲覧請求権が認められる者以外の者に対しても、各学校法人の判断により、積極的な情報公開の観点から、柔軟に対応することが望ましい
編集後記
東日本大震災の際、自動車教習所の多数の生徒さんが津波に被災して亡くなられました。
このことについて、平成27年1月13日、地方裁判所は教習所の運営者に約19億円の賠償を命ずる判決を下しました。津波による被災については、園バスが津波に巻き込まれ園児が亡くなられたことについて、地方裁判所が幼稚園に賠償を命じた件(高等裁判所にて和解)も記憶に新しいところです。
ただ、一方で、津波による被災については、賠償を認めない裁判例もあり、見解が分かれているところでもあります。このあたりの法的な考え方については、いずれ当ブログにて触れたいと思います。