平成29年4月、保育所の遊具で遊んでいた当時3歳の女の子が遊具に頭を挟まれて意識不明の状態になり、病院で手当てを受けていましたが、平成30年1月24日、亡くなりました。
死因は、低酸素脳症でした。
平成30年1月25日付産経新聞の記事から引用
事故の状況
女の子は、上記写真でいえば、うんていの上部「∠」状の支柱と支柱の間に頭を挟まれた状態で発見されました。
当時は屋外で遊ぶ時間帯で、女の子は、午前9時20分ごろからうんていで遊び始め、約10分後に職員が気づき119番したとのことです。
警察は、女の子は、上記写真でいえば、遊具の左手前下部の斜めの支柱を足場にしてよじ登り、その上に位置する支柱と支柱の間(「∠」状の部分)で頭部を挟んだ状態で遊んでいるうちに足を踏み外した可能性が高いとのことです。
欠陥と安全監視
この事故については、すでに、昨年12月、施設や担任の保育士らに対し、損害賠償を求める訴訟が提起されています。
遊具での事故を巡る訴訟では、通常、遊具に欠陥があるかどうか、保育士等が安全監視を怠っていたかどうかが争われていきます。
遊具の欠陥について
遊具の欠陥については、前述の「∠」状の部分が、子どもの遊具としての安全性を欠く欠陥といえるかどうかが争われるでしょう。
遊具の欠陥については、過去に争われた裁判例があります。
例えば、保育園で園児がかばんを掛けたまますべり台で滑っていたところ、かばんのひもがすべり台の手すりの上端部分にひっかかって窒息死した事故について、すべり台の欠陥が認められました。
安全監視について
安全監視については、女の子の遊びはじめから10分経過するまで、安全監視がなされていなかったことが、安全監視を怠ったことになるかどうかが争われるでしょう。
保育士等による安全監視についても、過去に争われた裁判例があります。
例えば、幼稚園の園庭で園児が遊びの自由時間にうんていに結びつけられた縄に首を引っかけて窒息死した事故について、以下のとおり安全監視義務違反を認めました。
Aは、三歳児であり、幼稚園に入園して間もないころで、親元を離れて慣れない幼稚園生活を始めた状況であったのであるから、自由遊びの時間であっても、その安全確保、事故防止には一層の配慮が求められるというべきであるところ、幼稚園の教職員らは、本件事故が発生するまでの間、A及び他の園児らの行動及び本件うんていにおける園児らの遊びの状況等について知らなかったというのであるから、幼稚園の園長、Aのクラス主任及び副主任は、幼稚園における縄跳びの縄の管理、本件うんていの落下防止等に関する運用を履践し、Aの自由遊び時間における行動、本件うんていにおける園児らの遊戯の状況や縄跳びの縄の使用等について十分な監視をしていたとは認められない。
安全監視が第一歩
内閣府の公表する「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」・9頁・「(6)設備等の安全確保に関するチェックリスト」には、以下の記載があります。
チェックリスト等で問題の改善や情報共有を図ろうというものです。
チェックリスト等で問題の改善や情報共有を図ろうというものです。
【教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン】 9頁・(6)設備等の安全確保に関するチェックリスト
施設内の設備について、年齢別のチェックリスト等を作成する等により定期的にチェックし、その結果に基づいて問題のあるか所の改善を行い、また、その結果を職員に周知して情報の共有化を図る。
参考例とされるチェックリストにおける、「うんてい」にかかわる点検事項は、以下のとおり記載されています。
【教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン】 42頁・<参考例8-2>固定遊具(環境上の点検事項)・・抜粋・・□ さびや金属劣化で本体部分に傷んでいる箇所はない。固定遊具(環境上の点検事項)・・抜粋・・□ 下に他児がいないことを確認して遊ぶよう指導している。□ うんていの上で立ち上がったり歩いたりしている子はいない。
ここには、今回のうんていのような「∠」状の部分に関する記載はありません。
ただ、このチェックリストが一般的な参考例でしかない以上、それは当然のことです。
ヒヤリハットがあれば、これをマニュアルやチェックリストに加えて共有していくことが、子どもの安全には必須です。
このことは、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」・6頁にも記載があります。
【教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン】 6頁〇重大事故の発生防止、予防のための組織的な取組みについて重大事故の発生防止、予防については、ヒヤリハット報告の収集及び分析が活用できる場合もあるため、以下の取組みを行うことが考えられる。ア 職員は、重大事故が発生するリスクがあった場面に関わった場合には、
ヒヤリハット報告を作成し、施設・事業者に提出する。
イ 施設・事業者は、集められたヒヤリハット報告の中から、上記①のア
~オの重大事故が発生しやすい場面において、重大事故が発生するリス
クに対しての要因分析を行い、事故防止対策を講じる。
ウ 施設・事業者は、事故防止対策について、下記(2)における研修を通じ
て職員に周知し、職員は、研修を踏まえて教育・保育の実施に当たる。
そのためには、日常から安全監視を怠らないことが第一歩です。
安全監視を徹底は、事故防止、事故にいたらないヒヤリハットの収集につながります。
安全監視の徹底について、理解にとどまらない、さらなる意識の高まりが求められます。