厚生労働省より、認可保育所・認可外保育施設(以下まとめて「保育所等」といいます。)における事故の報告集計が示されました。

集計対象時期 平成26年1月1日~12月31日
集計対象事項 集計時期の間に報告のあった保育所等における事故
報告件数   177件(認可保育所155件 認可外保育施設22件)

0歳のお子さまがお亡くなりになったケースが目立ちます。

なお、ここに記載の表は、すべて厚生労働省のHPからの引用したものです。

 

 負傷・死亡の件数と内訳

1 負傷

表1をみてみましょう。負傷等の報告は160件で前年の143件より17件増加しました。うち骨折が133件で多数を占めています。
表2をみてみましょう。年齢別では5歳が54人で最も多く、4歳が35人、3歳が22人と続きます。

2 死亡

表1に戻りまして、死亡の報告は17件で、前年比で2件減少しました。
再び表2です。年齢別では0歳が8人で最も多く、1歳が5人、4歳が3人、5歳が1人でした。0歳の割合は、47%(8人÷17人)にも上ります。

表1 死亡及び負傷等の事故概要
総合

表2 年齢別
年齢別

 

3 死亡事故発生当時の状況

次に表3を見てみましょう。先ほどの0歳に限りませんが死亡事故発生時の状況は、睡眠中が全体の約65%(11名÷17名)で多数を占めています。
このうち、うつぶせの状態で発見された件数は4件でした。
死因はSIDS(乳幼児突然死症候群)、窒息病死が各1名で(表は省略)、その他が9人でした。

表3 死亡事故発生当時の状況

死亡時の状況

 

睡眠中の死亡にかかる訴訟とその傾向

死亡事故発生時の状況のうち約65%(表3 11名÷17名)を占める睡眠中の死亡では、保育所等の責任を問う訴訟が数多く提起されています。

1 訴訟の動向

最近の判決を、事故原因(死因あるい心肺停止の原因)にかかる当事者の主張・裁判所の判断の観点から整理してみます。実際にはこれ以外にもさまざまな争点がありますが、ここでは割愛します。
裁判所は、①②において事故原因を窒息と認め、これは保育所等の過失によるものとして損害賠償を命じています。なお、その判決の確定の有無も併せて示します。

① 平成18年5月26日 福岡高裁
・ご遺族側の主張:死因は窒息である。
・保育所等の主張:死因はSIDSである。
・裁判所の判断 :死因は窒息である。
・判決確定

② 平成25年4月30日 那覇地裁
・ご遺族側の主張:死因は窒息である。
・保育所等の主張:死因は窒息ではない。RSウィルスに罹患していたなど施設で回避できない事情によるものである。
・裁判所の判断 :死因は窒息である。
・控訴(判決確定せず)
高裁は、地裁の判断を覆し、「心肺停止に至った原因は不明であると言わざるを得ず、うつぶせ寝で死亡したと認める的確な証拠がない」とし、ご遺族側の請求を棄却・保育所等には法的責任はないと判断しました。

③ 平成26年3月4日 横浜地裁川崎支部
・ご遺族側の主張:心肺停止(後に心拍は再開)の原因は死因は窒息である。
・保育所等の主張:心肺停止の原因は窒息ではない。ALTE(乳幼児突発性緊急事態)である。
・裁判所の判断 :心肺停止の原因を窒息と認めることはできない。
・控訴(判決確定せず)

2 裁判所での争われ方・裁判所の考え方

同様の事例が積み重ねられるなか、裁判所での争われ方、これに対する裁判所の考え方には、一定の傾向が認められます。

まず、裁判所での争われ方の概略です。
ご遺族側の主張:「死因は窒息である。これは保育所等の過失により生じた。」
保育所等の反論:「死因は窒息ではなくSIDSである。原因不明の死であり、保育所等に過失は認められない。」

これに対する裁判所の考え方の概略です。
① 死因が窒息なのかSIDSであるかは、解剖の所見だけでは判別しがたい。
② そこで、解剖の所見と子どもが発見された当時の状況をあわせて検討する。

つまり、死因が窒息かどうかは、医学的観点だけではなく、事故発生当時の事実関係もあわせて判断すると考えています。
事実関係として数多く検討されていることは、寝具の状態、子どもが発見された時の体位、事故前後の様子見の状況です。
寝具の状態とは、主に固さです。なかには、寝具のシワが問題視された事例もあります。
体位とは、うつぶせか否か、また寝具が口や鼻を塞いでいなかったかどうかです。
様子見の況とは、事故前後にどのような様子であったかを把握してその様子にふさわしい対応をしていたかどうかです。
寝具(敷き布団・掛け布団)が顔を埋めやすい柔らかなもので、子どもの体位がうつぶせで寝具に顔を埋めている状態であり、かつ様子見を怠っていたなら、医学的に矛盾がない限り、死因は窒息であると判断される傾向にあるといえます。

 

まとめ

これらの裁判は、事故防止には、固めの寝具を準備する、うつぶせ寝の体位をできるだけ避ける、子どもの様子見を怠らないことが必須であることを示唆しています。
もし、不幸にも事故が起きてしまったときには、寝具の状況、子どもの体位、事故前後の様子見の状況を明確にしましょう。そのためには、ここで触れたことを普段から意識して業務にあたることが必要でしょう。これに医学的な観点もあわせることで、無用な紛争を回避しつつ、真相を究明することができます。