前回、平成25年に策定された「幼児専用車の車両安全向上のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)では、シートベルト設置義務が見送られている旨お伝えしました。
ただ、シートベルトだけが安全対策ではありません。
ガイドラインでは、シートベルトとは別の安全対策が盛り込まれています。
その安全対策とそれが盛り込まれた背景を知れば、幼児専用車の安全について、より意識を高めることができます。

盛り込まれた安全対策は2点

盛り込まれた安全対策は、「シートバックの後面に緩衝材を装備」及び「シートバックの高さの変更」です。
これにより、前面衝突事故によって傷害を負った幼児の7割以上の被害を軽減できると試算されています。

シートバックの後面に緩衝材を装備

詳細は割愛しますが、「既存の技術基準を参考として、座席後面に一定の衝撃吸収性能要件を満たす緩衝材を追加することが望ましい。」とされました。

シートバックの高さの変更

幼児用座席の座面から座席背もたれ上部まで の高さを470mm~490mm 程度とすることが望ましいとされました。
この高さは、大人の同乗者からの視認性を確保しつつ、体格の大きい6歳児でも被害軽減効果が有効となるように配慮した結果です。

具体的な安全対策のイメージ

ガイドラインより安全対策のイメージを引用します。
黄色い部分が緩衝材、シートバックは470~490mmとされています。

安全対策のイメージ

ガイドラインでは、自動車製作者等に対し、この安全対策を講じた車両を平成26年度を目処に開発することを求めています。
また、使用中の車両についても、使用者である幼稚園等がガイドラインを踏まえた緩衝材の後付けができるよう、自動車製作者等に対し、平成26年度を目途に部品開発することが望ましいとしています。

安全対策の背景には事故分析あり

この安全対策の背景には、詳細な事故分析がありました。
その概要をガイドラインから引用します。

①主に前方座席が加害部位となって、頭部、顔部、頚部を受傷(軽傷)することが多い。
②平成15年~20年における事故データでは、死亡0名、重傷4名及び軽傷565名。
③幼児専用車が関与する事故は低速時に発生。
④保有台数1000台あたりの死傷者数は通常のバスと比べて1/10程度。

うち、盛り込まれた安全対策において特に考慮されたと考えられる「①主に前方座席が加害部位となって、頭部、顔部、頚部を受傷(軽傷)することが多い。」について見てみましょう。

幼児専用車の事故衝突部位は前面側が約60%

幼児専用車の事故における衝突部位は、全体のうち、前面が29.7%、右前角が17.3%、左前角が15.6%で、その合計は62.6%です。
衝突部位が前面側に多いことが分かります。
このことが、後述する前面の座席に接触しての負傷の割合が高いという結果に大きく影響しています。

幼児専用車の衝突部位
幼児専用車の衝突部位                           (ガイドラインより引用)

負傷者の傷害部位は頚部より上に集中

負傷者の傷害部位は、全体のうち頭部が25.3%、顔部が25.6%、及び頚部が27.9%で、その合計は78.8%です。
後述する加害部位とあわせると、幼児が前面の座席に接触して負傷していることが分かります。

負傷者の傷害部位

負傷した幼児への傷害部位 割合

(ガイドラインより引用)

負傷者への加害部位は2/3を座席が占めている

負傷した幼児への加害部位は座席が全体の66.4%です。

負傷した幼児への加害部位
負傷した幼児への加害部位 割合

                           (ガイドラインより引用)

事故分析から安全対策へ

これらの事故分析に照らすと、優先的に安全対策を講ずべきは、前方座席が加害部位となって、頭部、顔部、頚部を受傷(軽傷)する事故であることが分かります。
そこで、冒頭の「シートバックの後面に緩衝材を装備」及び「シートバックの高さの変更」が盛り込まれたのです。

まとめ

ガイドラインでは、シートベルトの設置義務は見送られましたが、それ以外の安全対策が盛り込まれています。
安全対策はもちろん、その背景となった事故分析を知ることで、より安全への意識を高めましょう。