平成30年5月24日、さいたま市社会福祉審議会の特定教育・保育施設等重大事故検証専門部会は、市長に「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」を提出しました。
この報告書は、平成29年8月、プール活動中に当時3歳の園児が亡くなった件について、本来配置すべき専任の監視者がおらず、目を離した隙に事故が起きたこと等を指摘し、再発防止策を提言しています。
プール活動・水遊びシーズン直前です(佐賀市ではもうプール開きのようです。)。
報告書の内容は、子ども達の目線で、子ども達の安全を確保するにはどうしたらよいかを考え、実践していくための参考になります。
【事故のあったプールの概要】
引用元:さいたま市社会福祉審議会の特定教育・保育施設等重大事故検証専門部会作成の「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」
事故の概要
平成29年8月24日、私立認可保育所のプールにて、職員がプールの滑り台を撤去中に目を離した隙に園児がプールで浮かんでいるのが発見されました。
意識不明の重体で病院に搬送されましたが、翌25日に亡くなりました。
「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」に沿って、24日当日の時系列を振り返ります。
空白の1分の間に事故が発生したことがみてとれます。
時系列
15:00
2歳児、5歳児がプールに入る。
15:25
3歳児6人(亡くなった園児も含む)がプールに入る。
以前からプールに入っていた園児も含め、計20人(5歳児9人、4歳児5人、3歳児6人)がプールに入っていた。
当時、プールに配置された保育士は1人であった。
15:30
プールに新たに1人の保育士が加わり、配置された保育士は2人になった。
15:35
2人の保育士が、プールのやぐらの上に乗せてあった滑り台の片付けを開始した。
これ以降、監視に専念する職員はいなかった。
15:36
2人の保育士が、片付けの過程において、やぐらの上の滑り台を一旦プールの中へ下ろした。
このとき、プール内の園児に異常はなかった。
15:37
2人の保育士が、一旦プールの中へ下ろした滑り台をプールの外へ出すため、立ち位置を変えた。
このときも、プール内の園児に異常はなかった。
15:38より
2人の保育士で一旦プールの中に下ろした滑り台をプールの外に置き、1人の保育士が園舎に戻った。
残った1人の保育士は、滑り台をプールの外に置くときに、プールに背中を向けていた。
他の園児の「あっ」と驚く声と同時に振り向くと、園児が水に浮いていることに気づいた。
保育士が救助し、心臓マッサージ、人工呼吸等を行った。
空白の1分があった
保育士の人数と監視の状況をまとめます。
プールを開始した15時~15時30分まで、プールには保育士が1人しかいませんでした。
指導と監視を兼ねた状態です。
15時30分、保育士が2人となりました。
15時35分より2人の保育士で滑り台を片付け始めました。
その間プールの監視や指導に専念する保育士はいませんでした。
15時36分・37分には園児に異常がないことを確認しました。
しかし、15時38分には保育士1人が園舎に戻っており、プール内には保育士が1人しかいませんでした。
しかも、その保育士は、滑り台をプールの外に出したときには、プールに背を向けていて監視はしていませんでした。
この事故は、プールを監視していない15時37分~38分の空白の1分のうちに発生したことになります。
報告書の指摘
「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」は、以下のとおり指摘します。
事故の起きた私立認可保育所は、「専ら監視を行う者とプール指導等を行う者を分けて配置し、また、役割分担を明確にする」という呼びかけ自体は知っていたようですが、その内容を誤解していたとのことです。
A園では、国の通知及び国のガイドラインにおける「プール活動・水遊びを行う場合は、監視体制の空白が生じないように専ら監視を行う者とプール指導等を行う者を分けて配置し、また、役割分担を明確にすること。」については、保育士の配置基準を満たしていることで足りるものと、誤った解釈、判断をしており、監視者と指導者の2人で対応する役割分担の認識が不十分で、プールの監視者はプールの監視のみに専念することを守られていなかった。
ここでの「国の通知」「国のガイドライン」は以下を指します。併せてご参照ください。
「国の通知」
「保育所、地域型保育事業及び認可外保育施設においてプール活動・水遊びを行う場合の事故の防止について(平成29年6月16日付け雇児保発0616第1号)」
「国のガイドライン」
「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドラインについて(平成28年3月31日付け府子本第192号 外)」
さらに、報告書は、以下のとおり指摘します。
平成29年の国の通知は園長のみが確認しており、各保育士への周知は行っていなかった。
つまり、
〇事故の発生した私立認可保育所は、国の通知及びガイドラインの存在やその呼びかけは知っていたが、園長がその内容を誤解していた。
〇そのため、監視者と指導者を分けて配置し役割を明確にする旨の指導も不十分であった。
〇しかも保育士らへの周知が不足していたためその誤解が修正されることはもちろん、その内容の実行も不十分であった。
〇それゆえ、監視者と指導者の配置も役割分担も曖昧になり、空白の1分が生じた。
ということになります。
報告書から読み取れること
「専ら監視を行う者とプール指導等を行う者を分けて配置し、また、役割分担を明確にする」
平成23年7月に神奈川県内で発生したプール事故を契機に作成された「消費者安全法第23条第1項に基づく事故原因調査報告書」やこれに続く通知、ガイドラインにおいて何度も指摘されています。
子ども安全を守るには、通知やガイドライン等の存在を知るだけでなく、意味を正確に理解のうえ、現場に周知しなければなりません。
報告書からは、そんな当たり前の教訓を読み取れます。
まとめ
このように、「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」からは、通知及びガイドライン等を正確に理解し、周知することの大切さを読み取れます。
そのためには、「マニュアル指導、共通理解、確認」、「外部講師の講義」が役立ちます。
このことは、前回の「プール活動の季節が目前 事故を予防するポイントを再確認②」のとおりです。
今回ご紹介の報告書、国の通知、及び国のガイドラインもあわせてご参照ください。
なお、「特定教育・保育施設等重大事故検証報告書(平成29年8月緑区私立認可保育所)」では、今回ご紹介した監視も含め、以下の提言がありました。
提言8は自治体向けですが、いずれもプール活動・水遊びの事故防止のために有益な提言です。
是非、同報告書より、その詳細をご参照ください。
提言1
プール実施における職員配置及び監視体制の徹底
提言2
プール実施の適切な判断、実施目的に適した職員配置と水深の設定
提言3
異年齢児、同一プール同時利用の原則禁止
提言4
午後(食事摂取後・午睡後を含む)のプール実施における体調管理の徹底
提言5
プールの構造上の安全対策並びに水温・水質管理及び記録の徹底
提言6
子どもの安全を優先する意識づくりの徹底
提言7
危機管理マニュアルの対象施設の拡大及び内容の改訂
提言8
午睡時及びプール実施時の立入調査の強化