平成30年4月24日、消費者庁の消費者安全調査委員会より、「教育・保育施設におけるプール活動・水遊びに関する実態調査」が公表されました。

プール事故を予防するポイントが5つ示されています。

1 監視者が監視に専念し、監視体制に空白が生じないようにすること

2 監視のポイントや事故の未然防止に関する教育

3 緊急事態への備え及び対応

4 事故やヒヤリハット情報の共有、蓄積

5 ガイドライン及び通知の周知徹底


その背景や法的な意味は、「プール活動の季節が目前 事故を予防するポイントを再確認」にて、ポイントの1とともに説明しました。

関連記事 「プール活動の季節が目前 事故を予防するポイントを再確認②

今回は、「3 緊急事態への備え及び対応」についてです。

幼稚園等は緊急事態への備えとしてマニュアルを作成しているか?
どのような訓練や工夫を行っているか?

実態調査を確認することで、緊急事態への備え及び対応を見直すことができます。

 

実態調査の結果(緊急事態への備え及び対応 マニュアル編)

「事故が発生しても対応次第で救える命がある」

これを認識し、緊急時対応マニュアルを作成して職員へ十分に共有、さらに実践できるよう緊急時対応時訓練を行うことが必要です。

これにより、プール活動・水遊びの現場に、心肺蘇生をはじめとする応急手当や119番通報を含めた緊急時の対応についての知識及び技量を有し、それらを実践できる人員を配置できます。

平成23年のプール事故について作成された「消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」の37頁「6.1 監視や救命処置のための体制作り」「(2)救命処置」においても、以下が提言されていました。

① 救急法に関する教育
② 救急自体に対応できる体制の構築

果たして、この「救急法に関する教育」「救急自体に対応できる体制の構築」はどのようにどのように実施されているのでしょう。

 

79.1 安全に関する年間計画の策定は進んでいる

プール活動・水遊びに関する園の安全対策について、安全に関する年間計画を作成している幼稚園等は、72.9%です。

そのうち79.1%の幼稚園等が、その年間計画にプール活動・水遊びに関する安全計画・安全対策を記載しています。

 

25.7% 専用マニュアルを作成していない園も多い

安全計画・安全対策を超えて、プール活動・水遊び専用の緊急時対応マニュアル(溺水などの事故が発生した場合の緊急対応の内容、手順を示したもの)まで作成されているか見てみましょう。

園長に尋ねたところ、以下のとおりでした。

「作成している」が26.5%、「専用ではないがそれに類する園のマニュアルで一部言及している」が45.7%で、合計は72.3です。

これに対し「作成していない」幼稚園等は25.7%でした。

園の種別でみると、マニュアルを作成していない割合は、私立幼稚園で比較的高いようです。

私立幼稚園の43.4%が専用のマニュアルを作成していないと回答しており、他の種別より高いことが分かります。

作成が未了の幼稚園等には、まず、緊急時対応マニュアルの作成が求められます。

 

52.0% 緊急時対応マニュアルが「ある」と認識している職員

緊急時対応マニュアルを作成したら、これを現場に周知し共通理解を促さなければなりません。

関連記事 「ガイドラインの理解は正確に、そして周知を

では、緊急時対応マニュアルは、現場に共通理解されているのでしょうか。

幼稚園教諭、保育士及び保育教諭に対して、プール活動・水遊びに関する緊急時対応マニュアルがあるか尋ねたところ、以下のとおりでした。

先ほど緊急時対応マニュアルを策定している幼稚園等は、全体の合計で72.3でした。
幼稚園教諭、保育士及び保育教諭が「マニュアルがある」と回答した
52%はこれより低率です。

緊急時等対応マニュアルが作成されても、その共通理解にまで至っていない園がありそうです。

事故防止には、マニュアルの作成と共通理解が効果的です。
事故防止の取り組みとして、マニュアルの指導、共通理解、確認が役立つことは、実態調査でも明らかにされました(「プール活動の季節が目前 事故を予防するポイントを再確認②」)。

現場への周知、共通理解への取り組みが求められます。

 

実態調査の結果(緊急事態への備え及び対応 訓練編)

マニュアルを作成しても、その実践には、日常的な緊急対応時訓練が必要です。
幼稚園等はどのような訓練を行っているのでしょう。

 

24.5% 緊急時想定訓練の実施はまだ途上

園長に溺水等の緊急時想定訓練を実施しているかどうか尋ねたところ、以下のとおりでした。

「毎年又は隔年等、定期的に実施している」と回答した園は、24.5%です。
「定期的ではないが、過去行ったことがある」と回答した園は14.7%です。

両者をあわせても、39.2%にとどまります。

行っていないとの回答が、60.2%にも上りました。

私は、定期的に救急の講習を受講しています。
それでも、受講のたびに、手順に迷いや不安が生じます。
ましてや、訓練なしに緊急時対応を十分に行うことなど期待できないでしょう。

より積極的な訓練の実施が求められます。

 

訓練内容は心肺蘇生とAEDが中心

前述の「毎年又は隔年等、定期的に実施している」「定期的ではないが、過去行ったことがある」と回答した園長に緊急時想定訓練の内容を尋ねたところ、以下のとおりでした。


「心肺蘇生の訓練」が85.4%、「AEDの使用の訓練」が84.9%で高い率でした。

なお、「園内の緊急連絡、伝達訓練」は43%と比較的比較的低い割合にとどまっています。

ただ、平成23年に神奈川県で発生したプール事故について作成された「消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」では、以下のとおり、心肺蘇生やAEDといった個別的な技術だけでなく、119番通報等も含めた緊急時対応全体の流れも踏まえることを提言しています。

② 緊急事態に対応できる体制の構築

日常的に発生するけが等だけでなく、重大な事故が起こりえることを念頭においた備えが必要である。幼稚園等においても、119番通報を含めた緊急事態への対応について整理し、マニュアルや定期的な訓練等により共有しておくべきである。その際、自体の進展が早く一国を争う状況にも対応できるものにしておくことが重要である。


これは、平成23年のプール事故について作成された「消費者安全法第23条1項に基づく事故等原因調査報告書」の35頁「(2) 救命処置」において、事故発生原因の一つとして、プール溺水事故が発生した場合等の緊急時の対応手順についてとりまとめすらなく、緊急事態への備えが十分になされていなかったことが指摘されたことを踏まえた提言です。

「園内の緊急連絡、伝達訓練」の重要性は、前述の心肺蘇生やAEDに匹敵するものと認識し、その訓練を重ねることが求められます。

 

心肺蘇生の訓練を受けた場所

心肺蘇生の訓練を受けた場所は、消防署が最も多く78%です。

横浜市も、小児、乳幼児、新生児に対する心肺蘇生とAEDの使用方法を主体とした3時間の講習等を開催しています。

私も受講したところ、現場に精通された方々からの教えが実践的で非常に有意義でした。是非ご活用ください。

 

実態調査(園での研修・工夫)

それでは、これらのマニュアル作成や訓練を、幼稚園等はどのように実践しているのでしょうか。
実態調査にあがった、現場の声を挙げてみますので、参考にしてみてください。

園での研修工夫(実践 緊急時対応マニュアル及び緊急時対応訓練)

・プールサイドに携帯電話、連絡マニュアル等を専用ボックスに入れている(公立保育所)

・AEDや携帯電話を身近に設置する(公立保育所)。

・各学年におけるシミュレーションをプール遊び前に行い、事故の際の連絡系統、蘇生法等速やかに冷静に判断、対応できるよう訓練している。定期的に行う安全会議においてもプール遊びに関するヒヤリハット、注意事項の確認を行い共通理解に努めている。

・プール遊び期間中は必ずプールサイドに職員を配置している。プール再度監視の保育士は緊急連絡用のホイッスルを持ち、なにか突発的なことが発生した時には周りの保育士に知らせることができるようにし、練習も実施している。

・地域の消防署の方にAEDの使用法や救命、応急措置方法の指導をお願いし、スタッフの勉強会を行っている。また、系列の認可保育園から「幼児期の運動に関する指導参考資料」(文部科学省 スポーツ庁)を借りて、研修を行っている(※)。
第1集第2集があり、第1集に「水遊びでの事故事例と防止対策」の項があります。

 

園での研修工夫(心肺蘇生などの応急手当や非常時の対応)

・年に1回は、必ず心肺蘇生の講習を園独自で行っている。保護者もPTAの行事として夏休み前に「救急法講習」を行っている。

・国のガイドラインに準じて、(市で)ガイドラインを園長会で作成している。心肺蘇生やAEDの使用について、園独自で訓練を行っている。

・プールや水遊びが始まる前に、AED、心肺蘇生の研修を行っている。

・今年度より救命救急実施訓練の回数を増やした。定期的に行うことによりその都度確認でき、身体が、命を守るためにしなければならないこととして動くようになる。

結局、工夫というより、心肺蘇生や救命救急に関する訓練を積極的に実施することに尽きるということでしょう。

 

まとめ

今回は、幼稚園等が、緊急事態への備え及び対応のためにどのような活動を行っているかを見てみました。

事故防止には、①緊急時対応マニュアルの作成、②周知と共通理解(共有)、③実践のための訓練が必要です。

緊急時対応マニュアルの作成はもちろんですが、それをどのように周知のうえ共通理解させるか。

実態調査を踏まえて、改めて振り返ってみることが有益です。