平成23年7月、幼稚園のプールで当時3歳の男の子が溺れて亡くなられた事故について、当時の園長が業務上過失致死罪に問われていましたが、平成27年3月31日、裁判所は、当時の園長に「過失」はなかったとして、無罪を言い渡しました。

 

争点は「予見義務違反」と「結果回避義務違反」

本件のようないわゆる「過失犯」では、以下の観点から有罪無罪が検討されます。以下の2つが備わると有罪となります。

「予見義務違反」(予想できたのに予想しなかった)
「結果回避義務違反」(対策すれば結果を回避できたのに対策しなかった)

本件では、「結果回避義務違反」(対策すれば結果を回避できたのに対策しなかった)がポイントになりました。

検察側は以下のとおり主張していました。
①水遊び時の注意事項を教諭に十分に教えていなかった。
②複数人による監視体制をとっていなかった。
以上に照らせば、当時の園長が対策を怠っていたことは明らかである。

これに対し、弁護側(園長側)は以下のとおり反論していました。
①幼稚園では子供から目を離さないことを徹底するなど、十分な教示が行われていた。
②複数監視体制を義務づける法令や行政指導はなかった。
以上に照らせば、当時の園長はできるだけの対策は行っており、これを怠った事実はない。

横浜地方裁判所がいずれの主張・反論を採用するのか注目されました。

 

裁判所は「できるだけの対策をしており、これを怠っていたとはいえない」と判断

横浜地方裁判所は、以下のとおり述べ、当時の園長には「結果回避義務違反」(対策を怠っていた)は認められないと判示しました。

①水遊びの注意事項を教諭に十分与えていたか
→担任の教諭は、4月の採用後、他の職員からプールでは常に全体を注視するよう指導を受けていた。とすると、水遊びの注意事項は十分に与えられていたといえる。

②複数人の監視体制をとるべきであったか
→幼稚園のプールの安全管理体制について、事故当時、明確な規定は存在しなかった。また、事故のあったプールは小さく死角もなかった。とすると、複数人の監視体制をとらなかったとしても、不合理とまではいえない。

裁判所は、以上を踏まえ、当時の園長が対策を怠っていたとはいえず「結果回避義務違反」はなかった、だから過失犯を認める要件を欠いているとして、無罪を言い渡したのです。

 

まとめ

傍聴券を手に入れることができなかったため、判決を傍聴することはできませんでした。ただ、報道内容をみると、裁判所が、事故当時の指導状況、及び事故当時は複数人による監視体制が要請されていなかったことを拾って判決に至ったことが見てとれます。
ただ、この事故後、神奈川県は「幼稚園プール安全管理ガイドライン」を策定しました。ここでは、「自主的なルール」ではありますが、「水遊びを指導する先生とは別の教員を監視員として配置することが重要です。」と明記されています(同8頁(2))。これにより、今後発生した事故にかかる裁判では「複数人による監視体制をとるべきことが明確に要請されていた」と判断され、複数人の監視体制をとっていなければ対策を怠っていたと判断されるかも知れません。これを機会に今一度、プールの安全管理体制を見直されることをお勧めします。
今後、判決を入手することができれば、再度詳細な内容をお届けしたいと思います。